果たして、私達は本当に自分でモノを考えていると言い切って良いのでしょうか。
私たちの思考は、これまでの慣習・しがらみ・成功体験・本能などに強く影響されており、決して自由に物事を捉えられているわけではありません。このように目には見えず、触ることも出来ないが、確実に人間の思考を無意識下で方向付ける存在を「構造」と呼びます。
「効率的であることは良いことだ」といった、社会に定着した価値観も構造の一種です。構造は社会に安定や秩序をもたらす一方で、時代遅れになった構造に従い続けることが、人間にとって真の意味でプラスに働く保証はありません。
Open Intelligence Labとは、物理的な研究所を意味するものではなく、私たちを無意識下で縛る世界の「構造」を可視化し、新しい時代に適応するよう知の力で再構築することを目指す研究スタイルを意味しています。
「構造を可視化して再構築する」、これは言うのは簡単ですが、その実行は容易なことではありません。だからこそ、実務と研究、教員と学生、文系と理系、さらには学術・文化・アートといったあらゆる既成の枠にとらわれない研究スタイルが必要になると考えています。
つまり、Open Intelligence Labは、社会課題を超学際的に検討する必要があるという私の信念に基づいた「開かれた」思考の実験場を意味しています。
本ラボでは、社会課題そのものを所与の前提とせず、「何を課題とすべきか」を問い直すことから出発します。私たちは、歴史の中で多くの叡智を獲得してきました。しかし、その叡智を継承するだけでなく、私たちの進歩の歴史や思考の枠組みそのものが本当に正しかったのかを再検証する必要があります。生成AIの出現は、単なる産業構造の変化に留まらず、民主主義や資本主義といった近代社会の根源的価値観を再考させる契機となっています。
今日、大学で学ぶことの意義、特に文系学問の存在意義に懐疑的な見解が広がる背景には、学問と実務の断絶があると感じています。私は、研究者・教育者・実務家として、これまでの人類の叡智を批判的に継承し、それを社会に浸透させることで、人々の真の豊かさを取り戻す可能性を信じています。
私は自らが「実務家教員」であり「異端の研究者」であると自覚しています。しかし、異端であるがゆえに、閉じた学問体系や制度的制約を超え、新しい知の形を社会へ還元できるのではないか――そうした想いのもと、学問の枠にとらわれない学際的な研究を続けています。
従来、経営学の分析対象である「経営」という現象は、人を最小単位としてきました。しかし、社会学・脳神経科学・行動遺伝学・複雑系科学といった分野横断的な知見を統合することで、単なる行動の観察を超え、欲求・価値観・環境・構造・脳・遺伝的特性といった多層的要因から現象を高解像度で分析し、理論モデル化することが可能になります。この試みは、極めて不確実な環境下における経営の成否に対し、説明力を飛躍的に高め得るものです。現時点ではまだ壮大な仮説の段階ですが、確かな実務的示唆を得つつあり、ここからさらなる知の探求が始まります。
もし、さまざまな学問分野で人類の叡智が融合したとしたら――そのような未来を想像するとき、私は強い好奇心と希望を感じます。この「Open Intelligence Lab」という名称には、知を開き、統合し、社会へ還流させ、世界をより良い未来へ導くという私自身の信念が込められています。